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2007年4月28日 (土曜日)

町田で出会った おじさん達

前回は、三浦半島でのリポートだったのだが、今回は、神奈川県に半島のように突き出した、東京都の町田市での見聞LOG。

美術館というと、高台にある・・・といった印象があるだが、初めて訪れた【町田市立国際版画美術館】は谷底にあった。Hanga2

その美術館の開館20周年を記念して催されたのが、「 中国憧憬 日本美術の秘密を探れ 」展である。
サブタイトルの“日本美術の秘密を探れ ”とは、つまり、日本美術の成り立ちに、中国から日本へもたらされた木版刷りの書籍に載る版画が、重要な役割を果たしていた・・・というテーマで、日本の仏画や絵巻物から狩野派など江戸期の画家の作品と、それらの手本になったであろう大陸からの版本の図像を示し、日本絵画への影響を検証しようということなのである。

途中まで観て、中ほどの休憩室で座っていると、ギャラリー・トークを知らせる館内放送。定刻に、集合場所の展示室入り口に行くと、高齢(・・と思われる)の学芸員の方が来た。
今回の標題の“おじさん”の一人目。
痩せ型で、顔も細面。メガネを通して見える眼がとても大きく見えるのはレンズが相当厚いからだろう。多数の文献を漁って研究されているのが、想像される。

さて、これから標題の“おじさん”を何人か紹介していくのだが、それでは“色”がないので、それをカバーするように、このギャラリー・トークには、着物姿の若い女性が7~8人も参加したのだった。モダンでシンプルな柄の着物を纏った人たちで、どこかの美大生なのだろうか? うっかり、尋ねるのを忘れてしまった、残念。

遣隋唐使によって舶載された版経に描かれた図像を写し取って仕上げた仏画。地誌の挿絵を手本にした、大きな屏風の名勝図絵。中国歴代皇帝の善行81、愚考36の故事を収録した帝鑑図は、帝王学の教科書として秀吉の後継のために、または、幕末の幕府存亡の危機に綱紀の維持のために、さらには本来の意味から離れて、支那の風俗描写のために・・・。

たとえば、狩野探幽の〈 帝鑑図 露台惜費 〉は、漢の文帝が露台(天子が舞を観賞するための場所 -屋外ステージのことか?)の建築を思いついたが、庶民の住居の建築費の何倍もの金額がかかるとして取り止めた故事による。Photo_36

王義之が高士を招いて行なわれた歌会の様子を描いた蘭亭曲水図の狩野山雪の屏風は、エキセントリックな形態感覚だ・・・と、
また、政治権力が江戸に移り、実物の絵画にふれられない京都狩野派は、版本の図像が頼りだった・・・と、学芸員は説明する。Hanga_cyuugoku1

最後の展示室では、池大池、谷文晁、渡辺崋山らの作品が連なり、南画の展開における画譜の役割を示している。支那の著名な画家の作品や画法をまとめた書物が、図像、筆致、着彩などにおいて、江戸の文人画へ如何に影響を与えていたかを教えている。

ここまで観ると、日本人画家が中国画題を受容した歴史がよく理解できる。パクリ、物まね、とも言えるが、憧れや尊敬の念を持って、懸命に制作の手本にしたのだろう。
ギャラリー・トークの最後の質問時間に、「日本絵画の特徴である輪郭線の描き方に、版画の線刻の描線の形が影響を与えてはいないか?・・」と尋ねてみたが、明瞭な答えは得られなかった。

美術館でもらった周辺地図を見ると、細長い公園を縦断すれば、次の目的地「ギャラリー・マチス」へ近道できることがわかり、歩いて行くと、まず大きな屋外オブジェがあった。今ひとつ、こういったパブリック・アートには馴染めないでいるのだが、いったん設置したからには、維持管理をしっかりしていってもらいたい。Photo_37

公園の中心部分には一般道が横断していて、人々は、その下を隧道でくぐる様になっている。そのトンネルを通り抜けるとすぐ、いかにも“ガードマン”という制服を着た男性が脇の道から来て、前を歩いて行った。この人が標題の“おじさん”の二人目。

彼は、ふと左のほうを見た。公園を通して流れるせせらぎの中に何か見つけたようだ。彼が行った先を見ると、ワタクシの所からはちょっと見えにくいのだが、少女の腕ぐらいの太さの枝を何本か立てて寄り掛けた“オブジェ”がある。誰かが、子供かな?イタズラで作ったのだろうか。

ガードマンの彼は、躊躇なく、それを崩してしまった。お務め御苦労さん・・・なのだが、できれば、そのままにして欲しかった。でなければ、壊してしまうのをためらって、シャッターチャンスを与えて欲しかった。
あ!でも、携帯電話の電池切れで、どのみち撮影はできなかったんだ。

公園の北の端は小田急の線路にあたり、擂り鉢状になっていて、地図に従って、あまり整備されていない坂道を登って行くと住宅街の裏側に出た。そこに、よく観光地の名所にある様な、庇付きの木製の看板があり、この公園の名は「芹が谷公園」とある。

相模野の台地では、市街地の中のこうした谷・窪地を、公園や遊水地、グラウンドに利用しているところがよくある様に思える。この「芹が谷公園」は、駅からもそれほど遠くなく、美術館を擁し、土地の形状をうまく利用した素敵な場所で、
美術館活動も、“鑑賞のための静けさ”よりも作品をめぐる会話を楽しむイベントを試みたり、“友の会”の活動も熱心なようだ。

母智丘(もちお)神社の裏を通り、左折して【 ギャラリーマチス 】の入口階段を登って中に入ると、作家夫妻が、ワタクシの来訪に少し驚きながらも、にこやかに迎えてくれた。
住谷重光展」 新作の水彩画が展示されている。優しい色が、あふれた光の上で揺らいでいる。  16702497_250

談笑していると、ひとりの男性が来場された。熱心に絵を観ている。画伯が話し掛ける。
「漫画を描いているのだが、水彩画も試してみたい・・・」
そう答えた、ジーンズにTシャツ姿のこの人が、標題の“おじさん”の三人目。16702497_52

水彩画にとても関心があるようだ。線描画ばかり描いていると、こうした淡い輪郭の表現をしたくなってくるのだろうか?それとも、歳のせいなのか?

来場者が皆帰り、個展最終日のクローズ時刻が近づいたので、芳名帳の最後の欄に記名し、画廊を出て駅の方向に歩いて行き、小田急線の踏み切りを渡って楽器店に入った。

弾き語り用のエレアコ・ギターを物色しているので、いろいろな楽器店を見て歩いている。男は“道具好き”で、ハード・ウェアに凝る人が多いのだが、ワタクシは、あまりこだわらない。機械や道具の良し悪しがよく判らないのと、ケチな性格なので、良品を所持していない。時々だが、人前で披露するようになった最近は、さすがにそれなりのモノが欲しくなった。

さて、ここに四人目の“おじさん”が居た。入り口近くのギターを見てから、もっとほかには?・・・と地下に降りて行くと、エレキギターがところ狭しと並んでいた。そこに、白髪頭の“ちょいワルオヤジ”風の男性が、壁に掛かった一本のギターをジッと見つめている。そのギターは、BEATLESファンならお馴染みの「Rickenbacker」だ。サンバーストの600シリーズの中古品。

ほかを見ながら一周して来ると、その人は、そのギターを手にした店員としゃべっている。聞き耳を立てると「・・・独特の音色ですからネ。好き嫌いはありますがねぇ」などと聞こえてくる。しばらく会話した後、買わずに帰って行ったが、あとでそのギターを見ると塗装が一部剥離していた。

気持ちがすごく良くわかる。欲しいけど、ためらっている。「揺れる乙女心」ならぬ「揺れるオヤジ心」。オトコの小心さ。かってに想像して決め付けてすみません。ワタクシも、試し弾きもせずに、その店から帰ってきてしまったので・・・

最近、なんか気になる同世代の男性の様子。長い年月を過ごし、世の中のことが分かってきて“不惑”の歳などと言われながらも、これからの黄昏の人生をどう生きていくのか、迷いの多き“悩める お年頃”。
自説を曲げない自信家や決断して我が道を行く人がうらやましい。この街で見かけた、ちょっと気になるオジサン達を見て、すこし和んだ気持ちになったが、だいぶ歩いて疲れてしまって、帰路はロマンスカーに乗った。

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コメント

>アトリエ湘さん

いつもコメントありがとうございます。

批評はできません。時代をくぐり抜けてきた作品には、
作家の覚悟というものが感じられて、どうしても、そちらに惹かれれます。
普遍性を探るために、定まった評価は参考になりますし、
また、それには捉われずに、自分の狭い見識から飛躍して
物事を考えるのが、歴史に学ぶ醍醐味です。

不器用な生き方しかできないので、ご指導ねがいます。

投稿: Dr.Katznov | 2007年5月 8日 (火曜日) 20:02

すてきな文章です。
版画美術館周辺の芹ケ谷公園の描写は手に取るようにわかります。
枝のオブジェ見たかったなあ。
町田は、今は乱開発でひどくなってしまいましたが少し入ると緑も多く起伏に富んで、博物館のあるあたりは、縄文人、弥生人が住んでいた所で、水質が良かったらしいです。
芹ケ谷公園にも奥には、噴水があり、ポコポコ湧き出しています。

「中国憧憬:日本美術の秘密を探れ」展、僕も見ました。
中国の木版刷りの書籍から、日本の画家がそれをお手本とし、受容し日本独自の文化になっていくプロセスがおもしろかったです。
谷文晁の墨の美しさ、池大雅の光を感じる絵も良かったです。
さまざまな遠近法や画論など、とても興味深いのですが、僕にとっては、外国語を見ている様で出来たらカツ博士の様な人がわかりやすくまとめてくださるとありがたいのですが・・・
「版画の線刻の描線の形が輪郭線の描き方に影響を与えていないか?」という問題提起、まさにそれはあるはずですね。
素材や画材から表現形式が生まれる一面は確かにあります。
鳥獣戯画や日本画に見られる線の重要性、それは素材の制約からも来ていると思います。
どの程度かわかりませんが、中国の木版画は、かなり、日本の木版画、絵画に影響を与えていると思いました。
水墨画は線のない調子の表現もあり油彩や水彩の調子(ハーフトーン)による表現に通じるところもあります。知らないことが、いっぱいあり、現代をみつめるためにも、いろいろ触れていきたいですね。

今回の「おじさん達」という視点、面白いです。
女性の時代といわれる今の世の中で「おじさん達」は、一見、頼りなさそうですが、これから渋く光ってくるのではないかと感じています。
女の人はもともと遊び上手で、三つ位のことを器用にこなしますが「おじさん達」の不器用さが、いい味を出してくるのでしょう。
或る意味、カツ様の分身でもありますし、それが視点のズラし効果でユーモアと新鮮さを文章に与えているのでしょう。
あっ、カツ様は不器用ではなく器用な人でした!!

最後になりましたが、「マチス」ありがとうございました。
まさかと思っていただけに嬉しかったです。まして、お褒めの言葉までいただけるとは!
カツ様も評価の定まった歴史上の人だけではなく自分の美意識で過去、現代の批評の表現・スタンスを確立されるといいですね。

投稿: アトリエ湘 | 2007年5月 4日 (金曜日) 21:35

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